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 しばらくレッスンができなくなりましたが、自宅におられる時間が長くなるこの期間に練習を増やして、逆にこの期間を、能力に勢いをつける機会にしていただければと思います。音楽というジャンルに取り組んでいる我々は、この状況を「災い転じて福となす」ことに利用できます。また、楽器を弾くという行為は集中力を保ちながら体を動かす運動なので、有り余ったエネルギーを傾ける対象にもなります。それからこの期間は、家のお手伝いをいつもよりたくさんしましょう。人のために何か貢献できるということは喜びです。

 先ずはこれまでに習った曲を繰り返し弾いてください。初歩の生徒は習った全ての曲をお手本の演奏に合わせて楽しみましょう。いい音で弾けたら楽しいはずです。上級生はこれまでに習った好きな曲だけでもいいです。古典の名曲は弾けば弾くほどその真価がわかってきます。それが上達へ王道です。弾くのが楽しいのは「弾ける」からです。繰り返し弾いているうちにさらに音が良くなり、ますます楽しくなります。弾くのが楽しいと思える曲をたくさん持っている人は、自分では気づかないうちに能力が育ち、新しい曲をマスターするための時間が短くて済むようになります。これまで習った曲の完成度が低い人は、次に習う曲の完成度もやはり低く、また勢いがないので新しい曲を覚えるだけで非常に多くの時間がかかります。自転車に乗っていて登り坂にさしかかる時、かなりの勢いがあれば一気に坂を登り切れますが、勢いがないと非常に苦しい思いをしてゆっくりと登らなければなりませんね。場合によっては坂を登りきる前に力つきて止まってしまいます。また、最初は勢いがあっても、坂を登りきったときには勢いは衰えていますので、その次の坂を登るためにはまた新たな勢いを作る必要があります。弾けるようになった曲をずっと弾き続けるというのがこれです。弾き続けると楽に弾けるようになり、それがまた次のステップへの準備となるわけです。遥かな高みにまで行きたいならこのサイクルを繰り返すことです。家で練習するのに、このような勢いをつける練習をあまりせず新しい曲の練習ばかりに時間を費やす人は、いわば借金の返済のみで苦しんでいるような状態にあるわけです。力尽きて返済できなくなる前に、基礎体力の強化を図ることが肝要です。


 漸く楽に弾けるようになると、誰にも「ここはこう表現したい」とか、「もっと綺麗な音程で弾きたい」、「もっと美しい音で弾きたい」などの欲求が出てきます。これが音楽の醍醐味です。また、ここまで行かなければ面白くありません。せっかく音楽の勉強をしておりながらこのような本当の楽しさを知らずにいると、音楽で自分を表現する喜びは得られず、その人が弾く楽器も生涯の友にはなり得ないでしょう。本当にもったいないことです。優れた演奏家というのは、表現の要求水準が極めての高い人のことですが、それは初歩のレヴェルの生徒においても全く同じです。

 ここまでは、スズキ・メソードの二本柱のひとつである「繰り返す」ことについて書きましたが、もう一つの柱は「聞く」ことですね。先ずは量の問題です。例えばアメリカで生活している子どもと、日本で英会話教室や車の中だけで英語を聞いている子どもを較べると、英語の会話能力は雲泥の差が出てきますね。一言に「聞く」といってもこれだけの違いがあります。家庭で音楽の教材を言葉のシャワーを浴びているように聞いている子どもは、その音楽の音程やリズムを間違って覚えることはまずありません。そればかりかスラーのない音とある音のちがい、細かなニュアンス、ダイナミックス、音色など全てをそのまま身に着けてしまいます。アメリカ英語とイギリス英語の違い、大阪弁と京都弁の違い、いえ、耳の力はもっと微妙で、子どもは生命の力によって毎日一緒に生活している親のしゃべり方の、それこそ言葉では言い表せない細かい音のニュアンスを身に着けてしまいます。これは聞く量に比例します。音楽を聞く耳も音楽を与えられなければ育ちません。微妙な音の違いを聞き分けられる耳を育てられた子どもは、高感度のセンサーを身に着けているのと同じですから、先生が間違いを指摘する必要はなく、たとえ間違ったとしても自分で気づいて自分で直します。従って先生はレッスンにおいては修繕屋になる必要はなく、もっと高いレヴェルでのことができます。自分に音に対するセンサーが育っていない子どもは本当に可哀そうです。

 聞くことには、どれだけ沢山聞くかという量の問題と共に、どれだけ深く聞くかという質の問題があります。我々は、他人の言葉のニュアンスはよくわかっても、自分でしゃべっている言葉のニュアンスには気づいていないのではないでしょうか。言葉に限らず、己を知るというのは本当に大変なことのようです。私は人の欠点を言いながら実は自分も同じ過ちをしていることがよくあります。自分には甘いのです。恥ずかしいです。多くの生徒が他の人の演奏の欠点は指摘できるのに自分でも同じような間違いをして平気なのは、自分の音を聞いていないからです。聞こえて (hear) いるけれど積極的に聞いて (listen to) はいないのです。自分の鳴らす音に対して厳しい耳を持っている人は音程の違いに気づきますが、「安易な耳」しか持っていない人は、正しい音程、美しい音程は作れません。指だけが達者に動いても押さえている場所の殆どが外れているという生徒さんはたくさんいます。自分の鳴らす音について常に批判精神をもっていて「この音であっているだろうか?もっといい音程と音色があるのではないか」等と問いかけ研究しながら練習する人は、どんどん上達して、素晴らしい演奏をする人になります。稽古には、ただ繰り返すのではなく「考えること」が必須で、考える要素は上級生になるほど大切になってきます。そもそも考え無しにただ繰り返すということは退屈で面白くありませんね。繰り返すのが嫌いだとすれば、よりよくしていこうという気持ちがないからです。逆に、要求水準が高く厳しい耳を持っている人は、何度弾いても自分の音に満足がいかないので、人一倍繰り返し、やがては「非凡な」高さに到達するわけです。

 以上に述べてきた「繰り返すこと」と「聞くこと」という、上達のための二本柱は家庭でなされることです。これを徹底してくだされば、レッスンのあるなしにかかわらず、子どもたちはどんどん上達します。レッスンで行う最も大切な問題は、音の鳴らし方ですが、奏法の原理は極めてシンプルですから、これまでに習ったことを注意深く徹底してもらえたらそれで十分です。

 4月18日から4月24日までの1週間に、スカイプで、皆さんの練習の進捗状況を聞かせていただき、その後の練習について個別にアドヴァイスをお伝えしたいと思います(これはレッスンとしてカウントされるものではありません)。勉強している一番新しい曲を聞かせてください。当方のスカイプのIDは以下のとおりです。

live:matumotos3

 それぞれの生徒さんの日時は、メールで改めてお伝え致します。当方のパソコンのアドレスをご存じでない方は、お名前を添えてメールを送っていただけますでしょうか。アドレスは以下のとおりです。

Shozo Matsumoto: matumotos3@utopia.ocn.ne.jp

 グループレッスンが再開できるようになったら、早いうちに独奏会をしたいと考えております。またみんなで合奏をすることも楽しみにしております。

 それでは皆様、お身体に気をつけて充実した生活を送られますように。

令和2年4月10日

松本尚三

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